理緒が生まれて

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 実家のマンションで私を迎えた母は、素直に喜べないと言いたげな複雑な表情に見えた。 「おかえり」と言って、抱っこ(ひも)で寝ている理緒(りお)に目を向け、「かわいいねぇ、理緒ちゃんね?」と顔をほころばせた。  汚かった実家は、以前に比べると綺麗になっていた。  私が暮らしていた頃は片付けが進まなかったんだろう。成人しても自立せず、手のかかっていた私が結婚して家を出たから片付ける余裕ができたのかもしれない。  母は白髪が増えていて、老けこんで見えた。父はそこまで老けていないと思った。  ミルクの授乳とおむつ替えの世話を両親に時々代わってもらい、母が用意してくれた適当じゃない夕食を食べて、夜間のお世話を頼んでまとめて眠ると、頭と身体が軽くなった気がした。ずっとモヤのかかっていたような頭の中が、少しすっきりした。  父は毎日、近くのイオンに散歩に行くらしい。昼食は外でいつも一人で食べると言う。  外の空気を吸おう、と思った。理緒を連れて父の散歩に同行した。  フードコートでランチを食べて、他愛もない話をした。父が最近YouTubeを見るのにハマっている話を聞いたり。私の事情は何も訊いてこなかった。  おそらく母から大体は聞いていると思うけど。自分が訊いても喧嘩(けんか)になるだけと思っているのかもしれない。  食べ終わってランチを片付けて、理緒にミルクを作って飲ませた。  ふと思い立ったように、父が「2階にラッセンの絵があるから、見に行きませんかね」と提案してきた。  イルカ達がいきいきと海の中で泳いでいる、よく知られたラッセンの絵画。その複製画が、イオンの2階で販売されていた。
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