理緒が生まれて

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「ラッセン、好きなんよ。(あざ)やかで、いいやん?」  理緒も泣いていないので、ラッセンの絵を父と見てまわった。  絵。絵画。……記憶のどこかに引っかかる。タカオカさんが何か、言ってたっけかな? 「ラッセンの絵、複製やからけど、安いんよねえ」  …………安い。値段……価格? “絵画は、言い値で高く売れるんです。この価格で欲しいと言う人がいれば売れます。絵画がその人のために何かするわけでもないのに” “おそらく、この絵画は自分の家にあるべき、なくてはいけないしあるのが自然だと思って、高額であってもお金持ちは買うんだと思うんですよ”  そうだ。タカオカさんはこう言っていた。オンラインサロンにいた頃だった。何となく違和感が残って、納得がいかなかった言葉。 「ねぇあのさぁ、絵ってどうして高いんだろうね?」 「ん?」 「いやさぁ、こういう複製のは高くないけど、絵画って結構高いものじゃない? 有名な絵っていうのは高いじゃん? あれって何なのかな」 「あぁ……」 「絵にさぁ、なんでそんな大金(たいきん)を払うんだろ? 音楽とか文学とか、他にもアートはあるのにさ、どうして絵だけはすごく高い値段で、売れることがあるんだろう?」 「そやねぇ……」  父は少し言いよどんで、考えた。 「……海外の金持ちが、自分のカネを守りたいんやろ」 「え?」 「金持ちは国に取られたくないんよ、自分の資産を。日本と違って、いつ何があるか分からんやろ?」 「……そうだよね」 「現物資産やろ……絵画だったら土地とも違って持ち運べるし、価値も安定しとるんやろ。海外の金持ちは、いつでも国を出られる準備をしとるもんやからなぁ……」 「そうかぁ……」  父の言った、富裕層が資産を(のが)す話は、納得がいくような気がした。でも…………   「……でもさぁ。海外のお金持ちは、面白いアートに着想とか、新鮮な刺激とか、求めてるんじゃないの? パーティで見てみんなで語るとか」 「そりゃまぁ、それもあるんやない?」 「……だよね」
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