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 其処は、太陽の日差しが一向に届かない、深く暗い森の中でのことです。  一人の女の子が腰を曲げてしゃがみながら、蔦と苔の這う大樹の根元の腐った枯葉を漁りながら、顔を汚して毒づきます。 「くそー……食用キノコの一つくらい生えてなさいよ……!」  また師匠にどやされるじゃないの、などと呟きながら、少女は額に浮かんだ汗の汚れを袖でグイと拭いました。  見るからに幼いその少女は、人っ子一人いないその森の中で明らかに浮いています。とはいえ、光一筋すら差さない森の中のことですので、闇に紛れて見えはしませんが。 「あー、そういや光源が無いんだったわ。見辛いのはそのせいか……」  間の抜けたことを言いながらも、少女はその手から白く輝く光の玉をフワリと生じさせ、自身の傍らに浮かせます。  そうして浮かんだ少女の顔貌は、控えめに言って可愛らしいものでした。  歳の頃としては、十にも満たないくらいでしょう。  頭には大きく尖った鍔の広い三角帽子を目深に被り、同じ暗色をしたマントを羽織ってローブを纏い、さながらその姿はいっぱしの魔法使いといった印象です。  足には草臥れた靴下を、そして黒ずんだ革靴を履いており、紐をきっちりと通して硬く結んで脱げないようにしている辺りに、少女の細々とした性格が見て取れます。 「む……?」  光の玉を側に寄せ、少女は大樹の根元に空いた小さな洞を覗き込みました。
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