1人が本棚に入れています
本棚に追加
1
其処は、太陽の日差しが一向に届かない、深く暗い森の中でのことです。
一人の女の子が腰を曲げてしゃがみながら、蔦と苔の這う大樹の根元の腐った枯葉を漁りながら、顔を汚して毒づきます。
「くそー……食用キノコの一つくらい生えてなさいよ……!」
また師匠にどやされるじゃないの、などと呟きながら、少女は額に浮かんだ汗の汚れを袖でグイと拭いました。
見るからに幼いその少女は、人っ子一人いないその森の中で明らかに浮いています。とはいえ、光一筋すら差さない森の中のことですので、闇に紛れて見えはしませんが。
「あー、そういや光源が無いんだったわ。見辛いのはそのせいか……」
間の抜けたことを言いながらも、少女はその手から白く輝く光の玉をフワリと生じさせ、自身の傍らに浮かせます。
そうして浮かんだ少女の顔貌は、控えめに言って可愛らしいものでした。
歳の頃としては、十にも満たないくらいでしょう。
頭には大きく尖った鍔の広い三角帽子を目深に被り、同じ暗色をしたマントを羽織ってローブを纏い、さながらその姿はいっぱしの魔法使いといった印象です。
足には草臥れた靴下を、そして黒ずんだ革靴を履いており、紐をきっちりと通して硬く結んで脱げないようにしている辺りに、少女の細々とした性格が見て取れます。
「む……?」
光の玉を側に寄せ、少女は大樹の根元に空いた小さな洞を覗き込みました。
最初のコメントを投稿しよう!