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episode1 春になったら
「首は据わったから大丈夫だよ」
そう言われて、腕の中に預けられた温もりは、それでもちょっとでも力を籠めれば、簡単に傷つけてしまいそうな程に小さい。落としたり出来ない脆い大切な生命を、私は両腕でしっかりと抱き止める。甘いミルクの香りが鼻先を掠めた。
「…可愛い…」
私の顔を見て、反射的ににこっと笑ってくれた春奈ちゃんのあかちゃんに、感動してしまう。
ちっちゃいお手て。ぷくぷくしたほっぺ。まん丸の目。全てが小さくて可愛いんだけど。
「ご機嫌いい時はマジ天使なんだけど。寝ない時は、これでもかってくらい悪魔だから」
新米ママの春奈ちゃんはそう言って、両腕のストレッチしてる。ずっと抱っこしてたから、腕も疲れるし、肩も凝るんだろう。
春奈ちゃんのとこに赤ちゃんが生まれて3カ月――。高校時代の友人たちで、出産祝いを届けに来たところ――。
「名前、隼人くんだっけ。男らしい名前だね」
色も白いし、睫毛も長いし、そんな勇ましい名前なんて、似合わないように見えるのに。
「うん。浩紀さんがどうしても、ちょっと古風な男らしい名前にしたいからって」
「今は可愛いしかないけど、すぐに大きくなってヒゲとか生えてくるんだもんね」
「ちょ、やめて、雛ちゃん」
ごついわが子が想像出来なかったみたい。
「雛、次、私にも抱っこさせてー」
「あ、ずるい。次は私、って思ってたのに」
一緒に来た友人の映子と美子が口々に言う。そんな風にママ以外の腕の中に、交代で抱かれても、隼人くんはご機嫌で、きゃっきゃ笑ってた。人見知りはまだしない月齢らしい。
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