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パンツとズボンを履くとそのまま部屋から出ていった。
足音が遠くなる。
それと同時に僕はクローゼットをゆっくり開け、その場にヘタレこんでしまった。
その子と目が合う。
僕の手に冷たい雫が手に触れた。
自分の涙だった。
僕はその場を動くことができず、涙を流しながらその子と目を合わせていた。
意識が瞳に吸い込まれていく。
「·····勝手に入っちゃダメでしょ」
母さんの声でハッとする。
部屋の戸を開けながらいつもの優しい声で僕に話しかける。
母さんは手に雑巾と水の入ったバケツを持っている。
「···母さん」
「明日の夕食何がいい?」
いつもの笑顔を僕に向ける。
「····母さん。この子」
「シチューなんてどうかしら?」
母さんは雑巾で床の血を拭きはじめた。
「···母さん。この子、」
「役割なんだから仕方ないでしょ」
ニコリと僕を見ながら、穏やかに唇を動かした。
その言葉に僕は何も言葉を発することができなくなって固まった。
「そうそう見て。これお父さんがくれたネックレス似合ってるでしょ」
首もとについているネックレスを嬉しそうに指差す。
「フフッ。初めてこんな素敵なものもらったわ。·····私、今幸せよ」
両手でギュッとネックレスを握っていた。
「·····そっか」
僕もふっと笑うとそのまま部屋を出た。
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