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繁忙期を過ぎたため、瀬川は日曜日を使って、羽菜と外食に出た。住宅地周辺には飲食店が見当たらないものの、幹線道路まで行けば、ファミレス等のチェーン店が点在していた。
「外食選びには困らなそうだね」
羽菜はステーキ200gの収まったお腹を擦る。日没後となると、自然と歩きは慎重になった。
「回転寿司は無事に産まれてからだな」
「別に、火を通したネタなら大丈夫だったのに」
街灯の他にも、各家庭の光が夜道を照らす。その中を潜る度に、監視されているのでは、という焦燥感に駆られた。
ーーー お前だけ許されるはずがない。
自宅マンションに辿り着くと、瀬川はいつも通り郵便受けのダイヤルを回した。羽菜は「観たいテレビがあるから」と言って、先に階段を登っていった。ダイレクトメールに混じって、見慣れない茶封筒が入っている。
そっと取り出すと、『重要書類在中』の判が押されていた。
恐る恐る、宛名に目を移す。
そこには『濱田菫様』と書かれていた。
自分は、試されている。
これが最後の一台なのだ、と直感した。
茫然と立ち尽くしていると、裏通りから車のクラクションが鳴り響いた。紫煙のように、宙で尾を引く。注意喚起というよりも、即断しない事を責め立てているようだった。
「大丈夫ですよ。秘密は得意なので」
瀬川は封筒を内ポケットに仕舞った。
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