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ソラの転校
授業開始のチョイ前にカミジョーが来る。昨日言ってたホームルームだ。転校生の紹介だよね。
「高階宙です!よろしくお願いしまーす!」
あれ、ソラじゃん。なんで?あれ?
呆然としている私の隣に、ソラが座り、話しかける。
「もしかして、心?久しぶり!元気してた?」
「あ、うん。ソラ...ちゃん。」
「ちゃんってなーに?宙だよ!」
久しぶりに話すと距離感が掴みづらい。こう、嫌というわけじゃないくて、緊張というか、人見知りというか。ソラは相変わらずだし、距離感とか感じてなさそうだなぁ。
「ソラ、また後で話そ。授業始まるし。」
「おっけー!あ、教科書貸して!机くっつけるね~」
相変わらずノーテンキだなぁ。でも、緊張に似た感情がほぐれていくのがわかる。このまま昔みたいに...
昔を懐かしむ気持ちがはたと途切れる。ソラに会えて浮かれていたけど、実はすごく気まずい問題が残ってた。
ミサキのこと。どうしよう。どう話そう。
頭がグルグルする。こういうとき、ソラなら「話せばなんとかなるさ~!」とかおどけて言うんだろうな。でも、私は悶々と考え込んでしまうタイプ。
とりあえず、先延ばししよう。授業中に落ち着いて考えよう。次はカミジョーの授業だし、それでオッケー。
カミジョーの数学。ホームルームの関係で、一時間目が数学に変更だとか。
正直、カミジョーの授業はあんましわかんない。数学科出身だとか、俺には才能がないから教師になったんだとか前に話してた。きっと頭はイイんだろうけどついてけない。でもテストはいつも簡単な計算だから、授業はみんなおネム。ただ、今日は隣にソラがいる。
「ねね、ムズくない?どーしよどーしよ?」
ソラが小声で話しかけてくる。ちょっと待って。まだ全然落ち着いてないって。
「うん、ムズいけどテストは簡単だから。」
「よかった~」
そう言った後、ソラはずっと前を見ていた。内容はわかってなさそうだけど、カミジョーを見てるって感じ。ひとまず、授業中は話しかけてこない...かな。
ちょっと、考えてみよう。私のことと、ミサキのこと。これまでのことと、これからのこと。
キーンコーンカーンコーン...
チャイムの音がした。授業が終わったみたい。ソラの周りには人だかりができている。
「ソラちゃん、私ハナ。よろしく!」
「どこから来たの?」
「長野!北高!」
「北高、こっちも北高あるよ!」
「家どこらへん?何駅近い?」
「うちの近くは北川駅!桜北川駅まで電車!あ、桜北川にクレープ屋さんできてるよね!美味しそう!」
「あ、ミルフラージュでしょ!あそこのミルクレープがすっごく美味しいんよ!」
「あれ、こっちのこと詳しいね?」
「もともと北川のおばあちゃん家に住んでたの。おばあちゃん、すっごい優しいの。いつもみかんくれて。えっとなんだっけ?あ、パパが中学の時に長野に転勤しちゃって一緒にお引っ越し。でも結局こっちに戻ってきてね。」
「おばあちゃんっ子なんだ、いいね~~」
休み時間に転校生を囲む光景って、小学校から相変わらずだよね...
ソラはこういう時に人見知りしない。クラスが変わってもすぐ皆と仲良くなってた。ソラがいなかったら、私はクラスでひとりぼっちになってたかも...
ソラがふとこっちを見た。軽く手を振る。ソラは手を振り返して、またクラスメイトと会話する。
やっぱ、学校じゃちょっとキビシイよね。
...放課後に話そう。ちょっと気まずいことになりそうだけど、自分のタイミングで話さないと、もっと変な感じになっちゃいそう。
2時間目は英語。授業を聞いとかないと、テスト勉強のときに和訳がよくわかんなくなっちゃう。
でも、今のうちに少しだけ...
「ソラ、放課後暇?」
「うん。あ、ミルフラージュ行きたい!」
「いいよ。一緒にいこ。」
これで、ゆっくり話せる。ミサキのこともあるけど、ソラと久しぶりに話したい。
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