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部活を辞めたわけ
私とミサキは中学から合唱部だった。
ミサキはソロを任されるくらい、他の部員から頭一つも二つも飛び抜けていた。確か、歌の先生に個人で習っていたとか。
私は最初、ミサキが入るからって理由でなんとなく入った。でも、毎日部活に励むミサキを見て、歌声を聞いていると、なんだかモチベーションが湧いてきた。
ミサキと歌いたかった。ミサキと歌について語り合いかったのだ。
放課後から下校時刻ギリギリまで部活をして、一緒に帰る。たまに卓球部のソラとも鉢合わせて一緒に帰る。そんな中学時代だった。
「美咲ちゃんは高校で何部に入るの?」
「合唱部。特に変えるつもりはないよ。」
「じゃあ私も合唱部かな。ミサキもいるしね~」
そして、ソラは親の都合で急遽転校した。ただ、私たちは部活と受験で忙しくて、卒業のころには自然と連絡を取らなくなっていた。
ソラに話した通り、高校でも私とミサキは一緒に合唱部に入った。でも、中学とは部活の雰囲気が違ってた。
やる気のない二年生と、二年生にピリピリする三年生。一年生は間に挟まれて少し疲れていた。中学ではチームワーク重視だったから、カルチャーギャップを感じた。
三年生が引退する秋まで、世代間の確執は広がるばかりであった。
ある秋の日、部長が皆を集めた。皆が静まり返った後、部長が唐突に告げた。
「次の部長には、美咲さんを推薦したいと思います。」
部長の言葉にざわめきが流れる。部長は二年生が恒例だから、異例中の異例だ。
「正直、二年生で部長やろうって人いる?いないでしょ。三年生で話し合って、美咲さんなら一年生だけど適任かなって。」
「でも、二年生には美咲さんのサポートをしてほしい。二年生の方が経験長いし、部長だから偉いってわけじゃないし。ただ、美咲を中心にメンバーがまとまるならそれがベストな形かなって。」
「美咲さん、どうかな。急な話だとは思うから、また今度集まって話しましょう。」
ミサキは、少し逡巡した様子だった。でも、すぐに落ち着いて返答した。
「そうですね。流石に急な話なので、明日また集まった時に話しても問題ないでしょうか。」
「うん、明日で大丈夫よ。集まれる人は集まってね。ほかの役職も決めちゃうから。」
二年生は半信半疑な様子だった。ただ、直談判するタイプもいなかったから、何か言い返す人はいなかった。
その日はミサキと二人で帰った。「ミサキ、部長ってすごいじゃん!」「私、ミサキにならついてけるかも!」そんなことを言って、私ははしゃいでいた。ミサキはいつものように淡々と受け流していた。
「すみません、私は合唱部を退部したいと思います。」
皆がミサキの答えを待ち望む中、唐突にミサキは退部を宣言した。
「自分には合唱部を率いる力はありませんし、もう合唱をやりたいと思えなくなりました。」
一応引き留めはあった。でも、ミサキの言葉は一年生の思いを代表していた。部長も少し覚悟はしていたようで、「そっか。」と一言いうだけだった。
ミサキはその日を境に部活に来なくなり、次年度の部長は結局、二年生の先輩に決まった。
私も、ほどなくして辞めた。三年生がいなくなり、雰囲気がさらに緩くなって、合わなくなった。何よりミサキがいないとつまらなかったからだ。やる気のあった一年生は、半分ほど辞めてしまった。
それから、私は自由になった。歌いたくなったらカラオケで発散して、帰ったらスマホでだらだら。テスト期間はお勉強。いわゆる、イマドキの高校生になった。
部活がなくなってからは、クラスが違うこともあってミサキとはあまり話さなくなった。話そうと思えば話せるんだけど、こう、罪の意識みたいなのが芽生えてしまってた。私がミサキを部長に推さなかったら、って思うと、どうしても気軽に話せなくなってしまった。
ミサキもきっと同じような気持ちなのだろう。自分が辞めなかったら、私まで辞めずに済んだのにって。
ミサキは口では「気にしてない、心配かけてごめん」と言ってくれる。表面上は変わりない気がする。でも、前みたいにイロイロと話してくれてない気がする。なんとなく、だけど。
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