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ミサキと歌
ソラは部活を見て回るって言ってた。今の時期って難しいけど、卓球部とかだったら大丈夫なのかな。私だったら入れないなぁ。
うーん、ミルクレープの新作気になっちゃうし、シオンとか誘って行こうとかなぁ。
「ごめん!今日は無理!(デートなの。)」
最後の方は小声だった。あらら、シオンはいつの間にかリア充さんかぁ。いいなぁ。
うーん、今日はクレープの下見だけして、今度誰かと一緒に食べに行こっかな。
西口に行くと、ミサキが歩いていた。
この前も見かけたけど、何してるんだろう。
声をかけづらいので、なんとなく、後を追ってみることにした。
ミサキは、近くのカラオケに入っていった。
こっち側のカラオケ、ちょっと高いからあんまり行かないんだよね...
うーん、ちょっとミサキも気になるし、入ってみよっかな...
ミサキの部屋は204らしい。エレベーターも2階に止まってたし、間違いないかな。
でも、ミサキって一人でカラオケに行ってたっけ?確か、家に防音室があるからそっちで練習できるって聞いてたけど。自分から遊びに行くって、ミサキのキャラに合わない気がするなぁ。
手続きをして、ミサキの部屋の近くまで向かう。
ミサキの歌声が聞こえる。あれ、BGMを切って歌ってるのかな。
ううん、歌ってるんじゃない。これは、トレーニングだ。
部活でやってたトレーニングよりも、高度なトレーニング。多分、発声練習、だよね。
そして、アカペラで歌い始める。
...なんで、そんなに上手いの?
部活で聞いていた歌声よりも、ミサキの歌は更にうまくなっていた。声質も、プロと変わらないかも。
これは、練習の成果だ。部活でやってただけの私でも、ううん、部活を辞めた私だからこそわかってしまう。
ミサキは、歌を辞めていない。
だけど、途中で止まる。漏れる溜息。そして初めからリピートする。
私は、ただ立ちすくんでいた。
「ミサキ、何を考えてるんだろう。どうして、何も言ってくれないんだろう。」
言葉にすると涙が出そうになった。すぐに頭を振り、自分の部屋に戻った。
歌っても気分が晴れない。自分の歌声がスピーカーから聞こえるたびに、ミサキと私の距離を感じる。
中学の頃は、ミサキに近づきたいって思ってた。近づけなくてもいいけど、自分なりに前に進んでいれば、ミサキと一緒にいられるんだって思ってた。同じものを目指してるんだって感じられた。でも今は、ただ、遠い。
ミサキの考えが、今はわからない。
ううん、昔からわかってなかったのかもしれない。ミサキは本当は、私たちのことをどう思ってるんだろう。ミサキは、歌をどう思ってるんだろう。
「もう合唱をやりたいと思えなくなりました。」
あの言葉は、本心じゃなかったのかな。
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