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「おかあさん!いってきまーす!」
「行ってらっしゃい!今日は寄り道なしだよ。」
「うん!わかった!」
「遅刻が多すぎるって先生に注意されたでしょ。」
「うん!わかってる!」
「車に気を付けてね。」
「わかった!わかったってば!」
おかあさんは心配し過ぎだ。毎朝、玄関で足止めされる。僕は早く外に出たくてワクワクしているのに。
ちょっと重い扉を開けた。一瞬まぶしくて目を閉じたけど、ゆっくりと目を開けてみた。
うわぁ!みんなキラキラだ!やっぱり雨上がりの朝が一番好き!
よし、決めた!今日はキラキラを探す冒険にしよう。しゅっぱーーーつ!
門を開けようとした時、ふと横の細い立ち木を見上げた。
おお!葉っぱにキラキラがいっぱいだ!まずは一つ目発見だ。
幹を揺らしてみる。たくさんのキラキラが降り注いできた。
「うひゃーーーーー!」
冷たくて思わず声が出た。
「大輔なの?まだそこにいるの?」
おかあさんの声が聞こえてきて、慌てて門を出て学校へ向かった。
ふぅーあぶない、あぶない。冒険は始まったばかりだ。よし、どんどん行こう。
僕は大きい水たまりの前で足を止めた。そうそう、ここに大きいのが出来るんだ。
スニーカーの先っちょで水たまりにそっと触れてみる。
小さな波がいくつもキラキラの波になって広がってゆく。二つ目発見。
夢中で何度もやっていたら、いつの間にかスニーカーのつま先が冷たい。しかも泥で汚れている。
あーまた、しかられちゃうかな、買ってもらったばっかりだし。しょんぼりして歩き出した。
「ワンワン!ワンワン!」
近所のおじいさんが飼っているゴンだ。ゴールデンなんとかという犬だそうだ。
「ゴン、おはよう。」
モフモフの頬のところに指を入れてクシュクシュした。ゴンが気持ちよさそうに目を細め上を向いた。
その時、濡れた鼻先がキラキラ光った。ラッキー、三つ目発見。
「大輔くん、何してるの?また遅刻するよ。」
この声は、同じクラスの里美ちゃんだ。姉ちゃんみたいに色々言ってくる。姉ちゃんは一人で十分なのに。
「今、冒険中なんだ。」
僕は、めんどくさそうに答えた。
「冒険中?なにそれ教えてよ。」
「キラキラしたものを探し中なんだ、邪魔しないでよ。」
里見ちゃんの目が一瞬キラッとしたけど、これは違うな。
「ふ~ん。わたしも探してあげてもいいけど。」
思わぬ仲間が増えた。隊長みたいな態度は、ちょっとイヤだけど。二人になって冒険は続く。
「ねぇ、あれは?」
里美ちゃんが空を指さした。飛行機が朝の光を浴びてキラキラと光っている。
「ほぉーーー!四つ目発見!」
「ほら、わたしがいたほうがいいでしょ。」
胸をそらして自慢げな里美ちゃんの肩にキラキラしたものが止まった。
「動かないで!」
びっくりした里美ちゃんに、ゆっくりと近づく。カナブンだ!緑色でキラキラしている。指先に乗せて見せてあげた。
「ほら、すごくキラキラしてキレイだよ。五つ目発見!」
里美ちゃんが目を見開いて僕の手を振り払った。
「きゃ!虫きらい!」
カナブンが飛んで行ってしまった。ごめん、びっくりしたよね・・・カナブン。
「君たち、どうしたの?」
里美ちゃんが大きな声を出したせいで、通りかかった学級委員長の守くんが声をかけてきた。
「今ね、キラキラしたものを探してるの」
僕が言う前に、里美ちゃんに言われてしまった。始めたのは僕だぞ。そして慌てて付け加えた。
「たくさん見つけたらアレの世界記録になる?アレの!」
「ギネスのこと?」
そう守くんが得意げに言うと、銀色の眼鏡をくいっと上げた。
「あーーーーー!」
僕と里美ちゃんが同時に指さした。すんごくキラキラしたんだ、眼鏡が!六つ目発見!
同時だったのが可笑しくて、顔を見合わせて二人でゲラゲラ笑った。僕たちを不思議な顔で見ていた守くんに理由を教えてあげると、三人でまた笑った。
守くんは仲間として心強い。勝手に仲間入りさせて冒険は続く。
「大輔くん、これはどうかな?」
守くんが学校の門の横に生えている木を指さした。そこには大きなクモの巣があって、水滴でキラキラと光っていた。
さすが仕事が早い。七つ目発見!里美ちゃんは離れたところで見ている。
「だいじょうぶ、クモいないよ。近くで見てごらんよ。」
里美ちゃんが、ゆっくりと近づいてクモの巣を見てみた。
「きれい・・・。お姫様のネックレスね。」
そう夢見るように言った。ふぅ~ん、女の子らしいところもあるんだな、これも発見だ。
「遅刻になっちゃうよー!急いでー!」
あいさつ当番の上級生のお姉さんが呼んでいる。僕たちは慌てて走り始めた。
「うわぁーーー!」
走りながら僕は思わず叫んだ。校舎の窓に太陽が映って、いっぱいキラキラしてたんだ。
どうしよう、えーっと数えきれないよ。100かな?もっとかな?
息を切らして上履きに履き替えながら、僕はドキドキしながら言った。
「ねぇ、ギネス、ギネス記録だよね!」
それどころではないらしく、二人とも答えてくれなかった。
廊下を早歩きして、教室に飛び込むと三人ほぼ同時に言った。
「おはようーーー!」
大きな窓から差し込む光に照らされながら、教室のみんなが振り向いた。
そして、たくさんのキラキラの笑顔と「おはよう。」が三人に降りそそぐ。
これはギネス記録決定だぞ!今日の冒険は大成功!僕は大きくガッツポーズした。
・・・それに遅刻もしなかったよ、おかあさん。
いつの間にか教室の大きな窓に張り付いたカナブンが、楽しそうな様子を覗いていた。
そして、その小さな背中には小さな小さな太陽がキラキラと輝いていた。
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