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小さなテレビ画面の中で戦闘は激化していた。姉に勧められた対戦ゲームを何戦も繰り返し、勝率は僕の方が上だった。
「お前、そこでその攻撃はずるいわ。」
「だってシュウがガードしないからだよ。」
姉がよく使っているキャラクターを操作し、大剣を持つ剣士に火の玉を放つ。シュウはコントローラーを握りしめて体を捩った。
「またかよ!くっそ、カズつえーよ。」
僕が勝利を収め、戦闘は終了した。気付けば時刻は午後5時半。窓から差す光も白から橙に変わり、徐々に薄暗くなっていく。夜に近付いていく空を見てカーテンを閉めようとした。
「ただいま。」
下の階から野太い男性の声がする。咄嗟に振り返ると、シュウがこちらを見て目を見開いていた。
「お、親父さん?」
「だね。降りようか。」
「待って、待ってな。」
そう言ってコントローラーを置き、ネクタイを締めていく。わざわざジャケットまで羽織ったシュウと一緒に階段を降りていった。
ゆっくりと下に向かう。母と姉の後ろ姿に、スーツ姿の父が混ざっている。僕らに気が付くと父は怒ったような表情に切り替わった。
妙な胸騒ぎがした。
「君が、和哉の…その…彼氏、なのか。」
思い詰めたように父は呟く。階段から降りて、シュウは頷いた。
「はい。か、和哉さんとお付き合いさせていただいております、高山柊一、と言います。」
「高山くんね…。なるほどね。」
ぼそりと呟く。すると父は手に持っていた鞄をその場に落とし、くたびれたジャケットを勢い良く脱いだ。白いワイシャツの袖をまくって靴を脱ぎ、こちらに向かってくる。もしかしたらシュウを殴るのではないか。そんな不安に駆られて2人の間に立とうとした。
しかし間に合わなかった。父はシュウの肩をガッと掴む。鬼気迫る表情は17年間家族として過ごしてきて、見たことのないものだった。
やがて父は声を震わせながら言った。
「表に停めてあるバイクは、高山くんのものか。」
妙な空気と沈黙が流れ出す。僕だけでなく母も姉も、どういう意味か分からないといった様子で首を傾げていた。
シュウは恐る恐る頷いた。一体何が誰の機嫌を損ねるか分からないのだ。返答次第で激昂する人もいるだろう。父はそういう人間ではないと思ってはいるが、確証はないのだ。
しばらくして父はシュウの肩を一度だけ叩くと、ごくりと唾を飲んでから言った。
「バイクのカスタム、教えてくれないか。」
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