愛奈の純真

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愛奈の純真

私が中学3年の時 雅也が転校してきたんです その時 彼は 多少 猿っぽい顔ではあったけど 普通の男の子でした でも 猿っぽい雰囲気なので 雅也は 他の男子から「サル」と呼ばれて ひどいイジメにあっていました 雅也は 毎日のように どこかから血を流したり アオタンを作ったりしていていました 私は とても心配で 休み時間や放課後 雅也の後をコッソリつけて 彼が殴られたり蹴られたりする様子を 物陰に隠れて見ていました どんなに殴られても蹴られても 雅也は 決して反撃しませんでした 頭を抱えて ジッとうずくまっているだけ ある時 雅也をイジメている男子は 調子にのって バットを持ち出し 雅也の背中に打ち下ろそうとしたので 思わず私は 飛び出して 雅也の上に覆いかぶさったんです 私が現れたので 驚いた男子たちは 初め ニヤニヤしていましたが やがて私を捕まえて 私の服を脱がせようとしたんです その時 雅也は 物凄い力で 数人の男子を アッと言う間に投げ飛ばし 私と手をつないで走って逃げました 雅也は 出会った時から 口はきけません だから 余計にイジメられたんだと思います 次の日 雅也をイジメていた男子たちは 雅也に暴力を振るわれたと言いふらしました 私は 昨日のこと 今までのこと を 先生に伝えました 先生が どこまで信じてくれたか わからないまま 雅也は学校に来なくなりました その後 しばらく 雅也の姿を見ることがなかったのですが 卒業式が近づいた ある日 担任の先生が 私に 雅也の様子を見てきてくれないか と言って 雅也の家を教えてくれました 「先生は 行ってみたんですか?」 と聞くと 「何度も尋ねたけど ご両親は 僕の顔を見ると すぐ玄関の扉を閉めて会わせてもらえないんだ」 と言いました その日の放課後 私は 雅也の家に行きました 雅也の家は プレハブ住宅をいくつか つなぎ合わせたみたいな家でした 玄関は開いていて  「こんにちは」 と 何度か大きな声を出したけど 返事がなくて 「雅也くん 愛奈でーす」 と 叫んだら 家の奥の方で ガタンと音がしたんです 「入ってもいいかなぁ?」 私は 靴を脱いで 奥の方に向かって進んで行きました プレハブの玄関から入った最初の建物には 居間と台所があって 次のプレハブは風呂とトイレと洗面所と物置みたいになってて その奥のプレハブは 寝室みたいでした 引き戸が半開きになったままの部屋が二つあって 開いた隙間から 敷きっぱなしになっている布団や毛布が見えました   その一番奥の部屋は 扉が閉まっていました 「雅也くん ここにいるの? 開けてもいい?」 と 恐る恐る 小さな声で尋ねると 「ゴホ ゴホ」 と 咳するような音が聞こえました 雅也は 口をきけないから 咳で返事してくれたんだな と 思って 私は 少しづつ引き戸を開けました 布団に潜り込んでいるけど 彼がいるらしかったので  「雅也くん 病気なの? 私 すごく心配してた 雅也くんに とても会いたくて 先生に 家の場所 教えてもらったの」 と 言いました その時 布団の隙間から 物凄く毛深い腕が見えたんです ドキッ としたけど 前から雅也 毛深かったから もっと毛深くなったんだな と 思うことにしました 私まで 雅也が 猿っぽいからって 驚いたりしたら 雅也 本当に独りぼっちになってしまうと 思って 頑張って 普通に こう言いました 「雅也くん イジメられたら辛いよね だからもう学校に来なくていいよ でも 私は雅也くんが好き また明日 遊びに来るから 明日は 顔 見せてね 急に来て ごめんね 家にいたらヒマでしょう? 明日何か 面白そうな本でも持って来るわ」 そう言って帰ろうとしたら 雅也は ガバッ と 布団をはがしたんです 雅也は だいぶ 今の雅也の身体になっていました 雅也は 布団の上に座ったまま 黙って私を見ました 私は とても驚きました  本当は少し 怖かったけど 雅也の気持ちを考えたら 悲しくて ツラくて たまらなくなって 思わず彼の手をとって 泣いてしまいました 私は 泣きながら 雅也を元気づけようと 必死に考えて 「大丈夫 私は 今の雅也くんも大好き 強そうでカッコいい!」 って 言ったら 「ゴホ ゴホ」 と 咳するみたいな声で喜んで 雅也は 私の背中を優しく撫でてくれました
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