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あたりは随分明るくなっている。夜明けが近い。始発のバスが数台連なって駅前ロータリーに入ってきた。その中にN温泉行もあった。
男はベンチから立ち上がる。ペンキが剥げ、ところどころ木が削れたベンチをもう一度眺めた。
それから市内循環と書いてあるバス停へゆっくり移動すると、バスに乗り込んだ。バスはよく暖房が効いていて、男はふうっとため息をついた。
警察署前で料金を支払っているとき、男はごほんとひとつ咳をした。運転手はひとのよさそうな笑みを浮かべて、お客さん、出張ですか。立春なのにまだまだこっちは寒いですからねえ。気をつけてくださいよ。そんな意味のことを強い訛りで言った。
そうか、今日は立春だったのか、男は警察に向かって歩きながらぼんやりと思った。
了
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