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突然
「あのね。今日が最後なの」
ぽつりと呟かれた言葉の意味が解らず黙ったまま手をしっかり握ってちらっと彼女を見ると、彼女は少し困ったように笑った。
「私は明日から自由登校だから」
「……あぁ、そっか……」
それだけしか言葉が出て来ない。
彼女は高3か……年上だったことがわかったくらい。
「今日までありがとうね!いつも温めてくれて…嬉しかった」
言いながら手を離そうとした彼女の手をしっかり掴んだ。
そのまま僕の両側のポケットそれぞれにしっかりと入れる。
「まだバスは来ていません」
それしか出て来ない。
名前が知りたい。
明日も会いたい。
離れたくない。
どんな思いもなぜか言葉として口からは出て来てくれない。
僕はぼんやりと前を向く。
小さな彼女は下を向かないと僕の視界には入らない。
こうやってくっつくと彼女の頭は僕の胸までしかなくて……。
バスが来ると僕は何か重たい足を引きずるように彼女と手を繋いで乗り込んだ。
隣に立っている彼女を見つめる。
その小さな手をもう一度握ろうか迷っていると、ガタンとカーブで揺れて、僕はとっさに彼女の頭と肩を抱いた。
「大丈夫ですか?」
下を向くと、彼女はぎゅっと僕の腰辺りのコートを両手で掴んでいて……僕は抱いていたその手に力が入る。
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