1年後

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 彼女の耳が少し赤くなっていることに気づいて僕は彼女の手から手袋を取った。  相変わらず白くて、でも先は少し赤い冷えた手。 「冷え過ぎ……冷やさなくても冷たいですよ」  両手でその手を挟むと彼女は思いっきり眉を寄せた。 「僕が温めますから」  泣き出しそうな彼女の手を僕のポケットに入れて抱き寄せる。  手袋をしているのに手を擦っている彼女を見て僕が温めてあげられたら……と元々そんなに冷えもしない手を朝わざわざ温めてから家を出ていた僕のように……。  彼女も元々冷えて冷たい手をわざわさ冷え切るようにしていたの?  ただただ話すきっかけが見つけられないばかりに、僕たちはどれ程遠回りをしたのだろう。 「あの……名前教えて下さい」  やっぱり冷たい彼女の耳に口を寄せて聞くと、彼女はくすぐったそうに笑った。 「そっか……私たち名前も知らない?」  笑う彼女を見て僕は少しだけ顔にかかったその茶色い髪を彼女の耳にかけて微笑む。 「僕は幸村(ゆきむら)冬吾(とうご)です。あなたは?」 「夏乃(かの)……細井(ほそい)夏乃よ」 「どんな字ですか?」 「夏の乃……このカタカナのノにあのカクカクの……」  空に指で書きながら真剣に言う彼女を見て僕はぎゅっと抱き締めた。 「……かわいすぎますよ」 「え?」 「僕たち夏と冬ですね」  彼女の小さな頭に頬を寄せる。
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