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だけど、一度出してしまったものは仕方がない。今更取り繕えそうもないし、この際だから話を続けてみる。
「違うよ。そもそもわたし、恋人とかいたことないし」
「えっ! そ、そうなの!?」
まるで天然記念物でも目の当たりにしたかのように、またたきをされた。大抵の人が見せる一般的なその反応に、心の中だけでひっそりとため息を吐く。
そんなに驚くことかなぁ、って。
「ホントなの? 二十九年間の人生で一度もそういうことがなかったわけ?」
「そうだよ」
「へえぇ、意外だなぁ……」
「そうかな?」
「ウン。だって、黒瀬さん、モテそうだしさ……あっ、今時はこういう発言もセクハラに該当するんだっけ!?」
「さようなら、水速くん。左遷されても元気でね」
「ちょおおおっ!? お願いします土下座しますから通報だけは勘弁を……!」
本気でわたわたとしはじめる彼に、小さく噴き出した。
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