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流石は、夏のクールビズ期でさえ、ネクタイをきっちりしめてくるほど真面目な水速くんだ。結婚したら奥さんの尻に敷かれそうなタイプ。彼のような人を結婚相手に選んだ彼女には、なかなか見る目があると思う。
デスクの上の缶コーヒーを手に取る彼の薬指には、シルバーリングが輝いている。
「そういえば、水速くんは近々アプリで知り合った彼女と結婚するんだっけ? おめでとう」
「あー、あざっす。こんなにも心無いおめでとうは初めて聞いたよ」
「まぁ、実際に興味ないからね」
「ははは……。いっそのこと清々しいね」
へなへなと笑われた。水速くんは、上司がくだらないギャグをかました時にもそんな風にわらう。
彼はパソコンに向き直りながら、しみじみと語りはじめた。
「僕は、本当に良い時代になったなぁと思うよ。オンラインで出逢った人と恋愛をして、結婚にまで至るのが当たり前になった。昔と比べて、異性と出逢うということのハードルがぐっと下がったよね。周りのカップルや夫婦を見ていても、馴れ初めのきっかけはアプリだという人が多くなったしさ。アッ……。えっとぉ、黒瀬さんは、アンチマッチングアプリ派なんだっけ?」
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