金曜日の歌

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 OLの玲は時計を見た。金曜日の午後4時。玲の前には山積みになった仕事がある。それが全てデータで管理されていて、実際には山積みにはなっていない事が皮肉のように思えた。あと、2時間。あと2時間でこの仕事を片付けなければ玲は6時に退社する事ができなくなり、そして7時に最寄り駅へと到着する事は不可能になる。  一見、淡々と仕事に向き合う会社員たちのオフィスだが、そこには金曜日特有の高揚感が微かに漂っている。だが、まだ玲は浮かれるわけにはいかない。  仕事が玲にとって苦痛なわけではない。だが、一方で好きでもない。ここにそれをこなすという事以外に何の価値もない。そういうものだから、玲はその通り仕事をする。だいたい、みんなそんなものだろう。そして、その隙間を縫うように酒を飲んだり、恋人と会ったり、趣味に没頭したりして英気を養うのだ。  そして、今日は金曜日。その日が玲にとっても仕事の隙間のための日である事には違いない。7時を想像して、玲の表情が少し緩む。オフィスに漂う高揚感が玲の集中の狭間に入り込んできたようだ。  しかし、それに気付くと玲は慌てて気を取り直し、この透明な仕事の山を捌く算段をつけ始めた。
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