金曜日の歌

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 玲の乗った電車が自宅の最寄り駅のホームに侵入する。金曜日の午後6時55分。今週やるべき仕事はなんとか全て片付けた。また、月曜日になれば仕事に追われる日々と再会する事になるが、別にそれが苦だとは思わない。むしろ、この生活を続けるために、金曜日のこの時間が必要だ。  電車のドアが開き、玲はホームへと押し出される。少しよろめいたが、上手にホームに着地した。満員電車から解放され、外の空気を胸いっぱいに吸い込む。特に田舎でもないが、気分は大自然の中だ。  玲はエスカレーターを駆け足で登り、改札を抜ける。駅前広場が見えてくる。今週もたどり着いた。会社から最寄り駅に着いただけなのに、まるで一週間ここを目指して旅をしてきたみたいだ。  ドーナツ屋がある。その前で店員がハンドベルを振っている。けたたましい音が駅前広場に響いた。 「今週もやってまいりました。毎週金曜日限定の醤油ドーナツの販売です。しかも、数量限定。早い者勝ちですよ。」 玲はそのドーナツ屋に駆け込んだ。今週もここにたどり着けた。このドーナツが食べられたのなら、また一週間生きて行ける。
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