ロミオの嘘

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 三月も半ばを過ぎた週末のお昼過ぎ。春らしい外の陽気を無視して、私は部屋のカーテンを閉め切り、声をひそめ気配を必死に消していた。  ここは自分の家なのに。 「結、そろそろ自分の部屋に戻れ」  少しだけ焦った透が私の肩を抱いて引き離そうとするけれど、逆らうようにさらに彼に密着する。 「いや」  甘えた声でさらに透の胸に顔をうずめた。透の温もり、匂い、なにもかもが愛おしい。  離れたくない。 「心配しなくても、なにがあっても俺の気持ちは変わらないから」  そっと頭を撫でられ、おずおずと顔を上げる。すると、すぐに唇に柔らかい感触があった。 「好きだよ」  真剣な声と眼差しに泣き出しそうになる。 「私も」と言おうとして一階の玄関で物音が聞こえた。 「結ー。透ー。ただいま!」  わざわざそんな大声で呼ばなくてもこの家はそこまで広くない。 「ケーキ買ってきたの! おやつに一緒に食べましょう!」  嬉しそうな母とは反対に現実に戻された私は泣きたくなる。そんな私の頭を撫でて透は私を促す。 「ほら、母さんが呼んでる」 「うん」  一緒に部屋を出ても、私は自分の気配を必死で消す。透が先に階段を降りていくのをじっと見つめ、わざと時間差をつけ私も軽快な足取りで階下へ向かった。  今度は自分の存在を主張するように。 「おかえり。思ったより早かったね」 「あら、不満そうね」  母のなにげない一言に心臓が跳ね上がる。 「結は悠々自適に部屋でスマホをいじっていたいんだよな」  先に席についてケーキを選んだ透が口を挟む。おかげで私の返事は母にではなく彼に向いた。
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