ロミオの嘘

3/9
前へ
/17ページ
次へ
「透だって人のこと言えないでしょ!」  口を尖らせ答えるも、確実に動揺していた私は透のいつも通りのからかいで救われた。 「にしても箱入り娘の結が、大学進学で一人暮らしなんてどうなるんだか」 「大きなお世話。自分だって出ていくくせに」  憎まれ口には本音も(こも)る。 「もうっ! いい年して兄妹喧嘩はやめなさい」  母の一声に私は黙って自分の席に着き、ガトーショコラを選んで皿に置いた。チョコレートが好きな私のために透はわざとガトーショコラを残してくれたんだ。  そんな彼の気遣いが嬉しいのに、素直に表せないのはこの関係のせいなのか。 「ほら」 「え?」  突然、透がフォークを向けてくる。先端にはチーズケーキが刺さっていた。 「好きだろ?」  余裕たっぷりに微笑まれドキッとする。チーズケーキは嫌いじゃないけれど大好物というわけでもない。  でも――。 「うん……好き」  少し迷った後、おとなしく口を開け、透に食べさせてもらう。こんな些細な行動に鼓動は速くなる一方だ。  チーズケーキの程よい酸味と柔らかさが口の中に広がるが、正直美味しいかどうかよくわからない。 ――バレていないよね?  母をうかがうがまったく気にしている様子はない。当たり前か。母は私が口にした「好き」に隠された本当の気持ちを知るよしもない。  喧嘩なんてとんでもない。  私、三条(さんじょう)結は、本気で透を愛している。実の兄である彼を、幼い頃からずっと想い続けている。  誰にも言えない秘密の恋。  ――違う。  誰にも言えないわけじゃない。私は正面に座る透をちらりと見た。  一瞬だけ交わった視線は優しくて、それだけで胸が締めつけられる。透は私と同じ気持ちでいてくれる。妹である私を受け入れてくれた。  彼なしの人生なんて考えられない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加