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  『新しいおっちゃん、ロードバイクのカタログある?ガノーとかビアンキとか』 『ビアンキぃ?ネットで見てよ。言ってくれたら何でも仕入れるし。ってかヨソの量販店とかで買った方が絶対安いぞー?』  商売っ気ゼロのアラタが修理中の原付と睨めっこしている隙に、壁のコンセントに盗聴器をセット。楽勝過ぎて拍子抜けしたけど、俺が出勤等々で不在中、アラタがどうやって過ごしているかを知る為には欠かせない。  が、全然何にも面白くなかった。BGM代わりにしているテレビの音声の他は修理や洗浄に使うのであろう機械音と水道音。たまに近所のおばちゃんやパンク修理に来た子ども達との会話が聴こえて来る程度。せっかく割と高性能なヤツを選んだのにアラタの日常は想像を遥かに地味さだった。  俺の住む302号室の真下は大家宅のリビング。床にガラスのコップを置いて耳をくっつけると鉄筋コンクリでも結構音が拾える。  が、ここでも主に聴こえて来るのはテレビの音。水道の音。何の変哲も無い生活音ばかり。  これらの盗聴活動で「おや」と思ったのはイクタトーマが結婚した時の『嘘!』『俺のトーマくんがあああ!』とヤマピーが某アイドル事務所を去った時の『嘘!』『ヤマピィィィ!』くらいのもんだ。  てかアラタ、男性アイドルが好きなんかい。  これは……これはまさか?  そう言えば髪型を(美容師さん主導で)ツーブロにされ、暇潰しに始めた軽い筋トレの効果を実感し出した頃から俺と会った時のアラタは眉尻があからさまに下がっていた。  朝、出勤の時にベランダから洗濯物を干しつつ見送られたり、ビフォーアフターでの変化が激しかった。これは……!  そしてとある土曜の夜。いつもなら閉店後は宅飲みして早寝がデフォルトのアラタに外出の兆しを感じた。風呂がいつもより一時間も長く、歯磨きまでもがやたら長い。(アラタにはキッチンで歯を磨く習慣がある。頂けない)  ドライヤーで髪までセットしているじゃないか!  俺は急いで追跡の準備を整え、アラタが玄関を出るのを慎重に待った。
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