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  『顔隠さないで』 『声聞かせて』 『おっちゃんは綺麗だよ』 『俺に全部見せて』  甘やかされる事に慣れていない、枯れたおっさんによくもあんな次から次へと。  湊はこれまでもそうやって女の子を甘やかして来たんだろう。  俺の事はとっとと忘れて、またそーゆー素敵生活に戻って行けばいいんだ。  女の子はいいぞ。柔らかそうでフワフワっぽくて、くたびれたおっさんより何倍も何十倍も抱き心地がいいに決まってるさ。ああそうさ。それに年がいっても元気いっぱいだしな。  ─────もう、もう…………  このまま、美しい思い出に浸ったままで朽ち果てたい。俺には夢も希望もない。この先もう恋とか出来ない。認めたくなかったけど、口が裂けても言えなかったけど、俺は湊にガッツリ恋をしていた。今だって恋しい。  もしもあと二十年早く出会えていたら素直になれたんだろうか。独占欲を剥き出しにしても許されたんだろうか。差し出された手を取って役所に婚姻届、じゃなくて養子縁組届を提出できたんだろうか。なんの躊躇いもなく。  刻一刻、時間が進むと同時に想いが膨らむ。今更どうにもならないのに募って行く。 「みなと…………」  それでも後悔だけはするもんか。  俺は正しい。いつか湊も『早まらなくて良かった』って思う。いや、その頃には俺の事なんてきれいさっぱり忘れてるな。長い人生の中で一ヶ月間だけ訪れたお尻ブームなんて忘却の彼方だ。  
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