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    生まれ育った小さな町。  愛着はそれなり。人付き合いもそれなり。可もなく不可もないままもうすぐ四十路を迎える俺だが。  これまたどーゆー訳だかここ一ヶ月ほどは朝が忙しい。 「(みなと)、起きろ」 「……ん〜〜……」 「ゆうべ風呂入らずに寝ただろ。シャワーくらい浴びてから出勤しろ」 「あと五分…………」  若者はよく寝る。寝るのにも体力を使うと知ったのは最近だが、寝る体力に事欠かない若さがおっちゃんの目には眩しい。カーテン越しの朝日も手伝ってとっても眩しい。 「い い か ら 起 き ろ。三秒以内に起きなきゃもう二度と泊めんからな。サン、ニー、」  ぱちっと目を開けた湊は綺麗な筋肉のついた上半身を起こし、やや不満げに欠伸をする。あ〜〜全く好みの裸だ。目の保養だ。細マッチョは正義だわ。 「おっちゃん……昨日おんなじタイミングで寝たのになんでそんな活動的なの……」 「おっちゃん朝だけは元気な生き物なのよ」 「うえ〜〜……まじまだ早い〜〜……」 「いいからシャワー行け。朝メシ出来てるから」  寝起きは瞼が三重になる湊は、首をコキコキ鳴らして俺を見上げる。そして伸ばして来た掌で俺の張りのない頬を撫で、顔を近づけて来る。ちゅっと触れるだけのキスに昨夜の強引さは無い。 「なんで今日は火曜なの〜〜」 「昨日月曜日だったからだろ」 「金曜まで遠い〜〜」 「ハイハイ、カワイソカワイソ〜」  流されやすいと自覚はあっても流石にこの状況には戸惑いもある。が、取り敢えずコイツを出勤させねば物思いに耽る暇もない。全く面倒な話だ。
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