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   だがしかし。 「ただいまー」 「…………」 「あー疲れた。晩ご飯なにー?」 「…………」  おいおいおい。待て待て待て。夢か? 幻か?  毎度のようにリビングに入って来た湊に固まっていると、湊は毎度のように寄って来る。待て。おかしい。何かおかしい。 「俺……今日は鍵閉めたぞ間違いなく」 「ふうん? でもチェーンしないとか不用心だゾ☆」 「いやいや! それでもおかしいだろ!」  俺は湊に合鍵は渡してない。そんなアホな真似は断じてしてないし、絶対に絶対に施錠した。こんなふうに湊がここに帰って来るんじゃないかって未練がましい妄想を打ち消しながら、それはもうキッチリ。チェーンなんて習慣的にしないがそれでも!  が、湊は俺の前に何やら楽器のキーホルダーが付いた鍵をプラプラ差し出す。 「最初の晩にゲットしといた♡」 「はあ?」 「まったく……一番休めない確申シーズンにめんどくさい事言い出しやがって」  湊はずいっと俺を睨み上げると腰を抱き取った。そして担ぐように俺をソファへ連行し、へたった背凭れに押し付けた。 「み」 「今日のアラタ可愛かった……泣きそうな声で俺の名前呼んでくれた」 「!」 「俺、昼休みにボッキしたの初めて♡掠れ声、色っぽかった〜」  何を、一体何を言ってるんだコイツは。俺が湊の名前を呼んだって……それってまさか。  ネクタイを怠そうに緩め、ソファの脇に手を伸ばした湊は、サイドボード下段の埃を被った無線ルーターを手にする。いや、ズルズルと引っ張り出したのは電源タップだ。 「コレ、性能いいから呟きでも拾ってくれた」 「盗聴器……!?」 「ピンポーン♪」  経年劣化で黄ばんだコンセントに差さった、新しそうな白い物体……  本物の盗聴器って初めて見た。うわー。こんな小さいのかー。ほっほースゲー。いやいやいや。いやいやいや! 「アラタってほんとに不用心。鍵持ち出されてコピーされても店の壁にこんな物体くっついててもなーんにも気づかないんだもん」 「店にも……!?」 「ココより解りやすくセットしてあるよ? あの頃は今ほど余裕なかったし」
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