3

8/11
前へ
/56ページ
次へ
   屈託なく笑うコイツはヤバい。完全にヤバい奴だ。非常にいい子だと思い込んですっかり油断していた。ってか、一体コイツは何が目的でそんな真似を。 「怖い?」 「…………」  湊は片眉を上げ不敵に笑ったかと思うと盗聴器を外し、また俺ににじり寄って来る。 「店のはね、事務机の下のほう」 「…………」 「たぶん直ぐにわかるから外して捨てて」  俺の掌を取って四角い盗聴器とコピーした鍵を載せると、湊は両手でその手を包む。  冷たい……雨のせいなのか、湊の手は酷く冷たかった。  よくよく見ると濃い色のスーツは濡れ、髪も湿っている。駅から五分でもきっと寒かったんだ。体が小刻みに震えて………… 「あの頃は余裕なかったって……いつの話だ」 「アラタが帰って来てくれて少しした頃、二年前? くらい?」 「二年!」 「コッチはココに出入りするようになってからだよ、流石に」  二年間もこんなおっさんを盗聴してなんの意味がある。何が楽しい。  しかも “帰って来てくれた” って……コイツは前から俺を知ってたって事かよ。 「こんな犯罪屁でもないくらい、アラタの事が知りたかったんだ……どうにかして仲良くなりたかった。ごめんなさい」 「なんで」 「あなた俺の初恋の人だから。ずーっと好きだった人だから」 「はつこい」 「俺、小さい頃ちょっとだけここに住んでた事あるんだ。アラタは覚えてない?」  昔ここに住んでた事がある小さい子って……  狼狽えながらも記憶を辿る。俺がまだ専門生だった頃、確かに誰か他所んちの子をウチで面倒見てた事があったような……夏休みか春休みか冬休みに帰省した時…… 「─────……三丁目の池田先生んちの孫!!」 「正解」 「魔人ブウスケ!!」 「それは傷つく」 「マジか! 成長して痩せたのか!」 「だから傷つくしヤメテ」  コロコロと福々しかった “ブウスケ” がなんて俺好みに育って……!  いやだからそうじゃないぞ俺。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加