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   あれは二十歳目前の春だ。  夏も冬も帰省しなかったけど、春休みに母さんの十三回忌をやるからって一年振りにこの町に帰って来たんだ。  少人数の簡単な法事のあと、会食の席では何故か由美子ねえちゃんの傍に知らない男の子が居て……お茶を出す準備をしていると、手伝いに立ってくれた由美子ねえちゃんは悲しそうに溜息を吐いた。 『池田先生のとこ、お兄ちゃんが若奥さんと揉めてるのよ。離婚するとかしないとかね……先生も参っちゃって』 『離婚の話し合いに子どもが居たらダメってこと?』 『それがねえ……ここだけの話、お兄ちゃんたら先生の生徒さんに手を出したんだって。その子の親御さんまで連日責任取れって乗り込んできて』 『うわぁ…………』  そりゃあそんな家の中に子どもは置いとけないわな。つーか由美子ねえちゃんの『ここだけの話』は町内みーんな知ってる可能性大なんじゃ。 『若奥さんのご実家は遠方だし、ウチはほら、麻里のとこの翔太が居るじゃない? 学年は違うけど登校班が一緒なのよ。それで今朝急に先生と若奥さんから頼まれちゃって』 『そっか……』  不憫だなぁって思ってふと仏間を覗いたら、並んだ膳の前にでんと陣取って寿司桶まで齧る勢いでモリモリ食ってるブウスケが目に飛び込んできた。  意外と逞しいじゃねーかって感心してたら、急にぽろぽろと大粒の涙を零して、一番近くに居た親父が慌てて俺を呼んだ。 『アラター! この子、食べ終わったらどっか遊びに連れてってやれー!』  正直なんで俺がと思ったけど、翔太は友達と出掛けてって夕方まで不在らしく。知らないおっちゃんおばちゃんばかりの中に放り込まれたブウスケを、やっぱりどうしようもなく不憫に思ったんだ。 「バイクの後ろに乗せて、海に連れてってくれた」 「よく覚えてんな……」 「アラタ、すげー綺麗だったし優しかったから」 「…………」 「今も変わらないよ。アラタはいっつも綺麗だ」
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