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   アラタは綺麗だ。  昔から全然変わらない。  お世辞なんかじゃない。  落とす為の、手に入れたいが為の殺し文句でもない。  愛想はあんまり良くないけど笑顔が印象的で。つっけんどんだけど優しくて。骨が当たりそうなくらい華奢なくせに俺をまあるくあったかく包んでくれる。  昔から……全然変わらない。変わってない。 「実際枯れてんだからしょーがないだろが」 「全然枯れてない……そも枯れ専界隈じゃアラフィフ以上がデフォだろ。勃つのかすら怪しい相手を愛でるのが枯れ専だろ」 「え」 「アラタいっつもビンビンだし、エロス垂れ流しまくって全く衰えを感じさせないくせして何が “カレセンモトム” だふざけんな」 「おい」  なんか自分でも訳がわからなくなって来た。なんか昂ぶってる。会心の監視作戦が事前にバレたから? 動揺してる?  俺、なんでアラタを監視しようって思ったんだった? 好きだから? 近づきたかったから? 一人ぼっち同士、仲良くなれるきっかけが欲しかったから? 確かにそうだけどもっと大事な─────  俺にとって一番大切な事は。 「お…………俺はなあ!」 「ちょ、ミナト」 「俺は!」 「待て、落ち着け」  どうしよう。感情の持って行きようがわからない。ドーパミンとノルアドレナリンの作用で情緒を保てない。泣けてくる。 「俺は……前のおっちゃんの時みたいにたった一人の家族にすら看取って貰えなくて、俺みたいなヨソの子の手を握りながら死んじゃうような寂しい思い、アラタにさせんの嫌なんだよ!」 「…………」 「俺と一緒にいる時なら腹上死でも腹下死でも好きにすればいいけど、俺の居ない時に一人で店の中で倒れてたらどうしたらいいんだよ! アラタには、アラタには……!」  俺はアラタの家族になりたい。  いい時も悪い時も当たり前に寄り添って、死ぬ時だって傍に居たい。  アラタの油の染み付いた手を握って『幸せだよ』『ありがとう』って言いたい。アラタからも『幸せだったよ』って言って欲しい。  天国のおっちゃんにも、俺がアラタを幸せにしてやったぜ! って胸を張って言いたい。  だって二人とも、ヨソの子の俺に優しくしてくれた掛け替えない人達だから。
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