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  「弁当忘れんなよ」 「イシイのミートボール入れた?」 「入れた入れた」 「わーい♡」  若者はイシイのミートボールが好きだ。残り物のおかずと玉子焼き、あとはレンチンのミートボールがあるかないかで昼休憩の満足度が違うらしい。  俺も高校や専門の頃はタッパーに詰めたご飯とミートボールさえあれば幸せだったから理解は出来るが、近頃はあの濃い匂いだけで胸が一杯で食べようとは思わない。いやそもそも平日に昼メシは食べんが。 「晩ご飯なにー?」 「たった今朝メシ食って、弁当片手に言う台詞か」 「オムライスかカレーがいいなー」 「…………」  胃のあたりが『ゲンナリ』と発している気がするが、スーツ姿の若者は大好物なので気を取り直す。少し曲がったネクタイを整えてやると髪や額にキスが降ってくる。 「行ってきます」 「ハイハイ」 「ハイは一回! あと、若い男がお客で来てもニヤニヤしない! わかった!?」 「……ハイ」  名残惜しそうに唇に落としたキスで半日お別れ。湊は仕事が終わると真っ直ぐに俺の家(ここ)に帰って来る。この一ヶ月、ずっとそうだ。  解せない。
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