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   小二から中学卒業まで母の地元で暮らし、高校からは吹部の楽器推薦で進学した先で寮生活をした。学校は(アラタが出会い系の待ち合わせ場所にしていた)例の公園の、幹線道路を挟んで反対側にあった。  彼女らしきものも高校で出来たけど、それは『恋』とは違う気がした。  俺にとって『恋』はもっとワクワクして胸が高鳴ってずっと傍に居たくて。離れると泣きたくなるくらいに寂しくて。見張っていないと不安で不安で堪らなくなるような、そう言う事だって思った。  だったら俺にはアラタしか居ない。  最初から俺にはアラタだけだから、他の誰も好きになれないんだって悟った。 「そーゆーのを世間では刷り込みって言うんだ」 「そうだよ……ヒナだった俺にアラタが自分は一番だって刷り込んだんだ……」 「言い掛かりだ」  言い掛かりでも何でもいい。何を言われようとアラタが一番大切な人だって事実は揺るぎない。それに、いつかきっと再会できるって信じた俺は正しかったじゃないか。今こうして大好きな、恋い焦がれたアラタが抱きしめてくれるんだから全部全部正しかった。  アラタはスンスン泣く俺を柔らかく包んで髪を撫でる。何もかも受け入れて許してくれる。流されやすいと言うより度量が広いんだと思うけど、それは今後の為に言わないでおく。 「あのさー……これだけは言っとくけど、親父はミナトが傍に居てくれて、手を握っててくれて嬉しかったと思うぞ」 「…………」 「血の繋がりだけじゃなくってさ、自分を慕ってくれる人間がこの世に居てくれるって心強いし……有り難いもんだよ」 「…………」 「あの日、由美子ねえちゃんは孫達の合同誕生日会とかで焼肉食いに行ってたし、少々血の繋がりがあったってみんな自分のことでいっぱいいっぱいなモンなんだよ。息子の俺だってギリギリ死に目に会えたのは寧ろ幸運だったと思うし……意識はなかったけどさ」 「…………」 「俺はミナトに感謝してるよ。親父も寂しい死に際なんかじゃなかった、絶対」  俺の目を捉えたアラタは、笑った。  目尻に出来た皺が前のおっちゃんにそっくりだ。 「親父のこと、一人にしないでくれてありがとうな。そんで……俺のことも宜しく頼むわ、マジで」
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