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  「ヤッター! オムライス!」 「買い物に行く時間も煮込む時間も無かったからなー。カレーは休みに作るわ」 「おっちゃんのご飯て何でも美味いけど、今日はいっちばん美味い〜〜♡」  可愛いよなあ。単純にシンプルに率直に湊は可愛い。  皿まで齧る勢いでメシを掻き込むこの画面(えづら)……可愛くって可愛くって永遠にでも眺めていたくなる。習慣でつけっぱなしのテレビより遥かに鑑賞し甲斐がある。 「あ、イクタトーマ! おっちゃんの好きなイクタトーマ!」 「結婚したからもう好きじゃない」 「おっちゃんの二大巨頭、ヤマピーも事務所退所で露出減ってるのにね!」 「元気だったらそれでいい」  テレビの中のイケメンより、今の俺を癒してくれるのは目の前の湊だ。これまた口が裂けても言えんし言わんが。  ケチャップのついた頬っぺたをティッシュで拭うと、湊はスリスリとその手に頭を預ける。は〜〜なんつー可愛い仕草。 「汚い手に顔をくっつけない」 「汚くないもーん。俺、おっちゃんの手好きだもーん」  油が染み付いたヨレヨレの手と、水を弾かんばかりのイキのいいお肌の対照的な事。手だけじゃない。俺と湊の存在自体、どこもかしこも対照的なんだ。いや、対照的と言うより人間の進化図を並べたような……アウストラロピテクスまで退行したとは言わんが、ホモサピエンスとネアンデルタール人orクロマニヨン人くらいの差はありそうだ。 「食ったら風呂入れ」 「おっちゃんと一緒に入りたい〜〜」 「アホか。つーか俺はもうとっくに入ったわ」 「え〜〜隅々まで洗ってあげたい〜〜もっかい入ろうよ〜〜」 「年寄りの無駄風呂は地肌の潤いを奪うモトって知っとけ」 「無駄風呂ってナニ!」  これまでの経験上、俺はどうやら世話焼きなほうらしい。自覚しないまま世話を焼くせいで “対象” から『重い』と振られた事もある。(恋人とか言う括りではなかったけど)  そんな俺に『○○してあげたい』とは……全く奇特な若者だ。
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