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   ─────『カラダ、慰めてあげます』  約一ヶ月前のあの夜から始まった関係に名前をつける気はさらさらない。そんな烏滸がましい、分不相応な真似はとても出来ない。  そのうちきっと湊は俺の前から消えてしまう。  その時少しでも自分の被るダメージを減らせるようにしなくては。あと、メディアの中じゃなくリアル若者の匂いとか温度とかその他諸々を海馬に焼き付けておかなければ。  湊が去った後、こんな俺にも心地いい、幸せな時間が確かにあったと思えば残りの人生にも張りが出ると言うもの。 「早めに寝ろよ」 「え! おっちゃんもう寝るの!」 「おっちゃんは昨日、週明けからがっつかれたせいでシンドイんですわ」 「ごめん……でもおっちゃんが色っぽいから悪い」 「ハァ? ……っておい!」  湊は俺の腰を抱き取り『あっ!』という間もなく寝室に連れ込んだ。あれよあれよと組み敷かれ、勢いのまま体じゅうが熱に呑まれてしまう。また流されてしまう。 「お前っ……! 風呂にも入ってないくせにっ……」 「朝入ったし」 「あのなあっ……んんっ!」  強引なのに。  湊の手も唇も俺に優しい。酷く優しい。  ヨレヨレとは言え男なんだから少々雑に扱われても壊れない。こんな、華奢で柔らかい女の子を愛でるように触られたら勘違いしてしまう。脳みそまで揺らされて錯覚してしまう。  体温も汗の匂いも時々余裕がなくなる目差しも全部、ぜんぶぜんぶが俺に向けられた “愛情” なんじゃないかって─────  こんなしょぼくれたおっさんの分際で。  厚かまし過ぎて眩暈がする。
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