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「なんだこれ」
哲也は手のひら大の、飾り気のない長方形の箱を手に困惑していた。自宅に着き、流れ作業でポストを確認したら入っていた、頼んだ覚えのない謎の郵便物。
とりあえず部屋に持ち帰り、食事と風呂をぱぱっと済ませた後、確認してみる。天上には「色眼鏡」と書いてあり、中には緩衝材に包まれた、色気のない銀縁眼鏡が一つ入っていた。
差出人がわかるものなど入ってないかと探ったところ、一枚の折りたたまれた紙が同封されていた。恐る恐る開いてみると、どうやら、眼鏡の取り扱い説明書のようだった。
いわく、
一、この「色眼鏡」は他人の言葉に反応してレンズの色が変わります。
二、言葉を発した際の他人の感情によって、変わる色も変化します。
三、色の変化は他人からは認識できません。
四、感情ごとに対応する色については、ぜひご自分の目でお確かめください。
五、この眼鏡をかけることであなたの世界は一変しますが、それによって生じた問題について、我々は一切の責任を負いません。
……なんだこれ、と内心でもう一度つっこみを入れる。他人の言葉と感情に反応してレンズの色が変わる眼鏡、しかも差出人不明。怪しいにもほどがある。
そのまま箱ごと眼鏡をごみ箱に投げ入れようとして、しかし哲也は、ふと、手を止めた。
「世界は一変、ねぇ」
怪しげな眼鏡の処遇は一旦保留とし、哲也は倒れ込むように眠りについた。
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