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色眼鏡を手に入れて一週間。平日も休日もずっと使い続けていた結果、なんとなく色と感情の対応関係がわかってきた。
まずわかりやすかったものとして、桃は恋慕、紫は下心。
おかげで、うちの職場は意外と人間関係がドロドロなこととか、セクハラが横行していることとか、知りたくない事実をたくさん知ってしまった。
それから、黄と橙は違いが曖昧だが、どちらも楽しさや嬉しさなど、おおむね明るい感情の時。
逆に、青は暗い発言や冷たい発言に反応し易いので、主にマイナスの感情に対応しているのだろう。
赤と灰は当初予想した通りだ。
赤はおそらく怒りや嫉妬などの感情の時。灰は嘘を吐く時など、発言に後ろ暗い意図がある時だと思われる。
ちなみに、山根の言葉はほとんど赤と灰ばかりだ。
そんな中、ただ一つ。緑の感情の正体だけは、まだ一切掴めていなかった。
何か規則性があるには違いないはずなのだが、どうもしっくりくる感情に辿り着けずにいた。
「原田くん、ちょっと。この前の会議についてだが、」
ほらきた。また緑だ。哲也は仕方なく立ち上がり、ゆっくりと課長の席へと向かう。
「ご苦労様、と言いたいところだが、上から改善点について指摘があった。それで申し訳ないが、今からその点を考慮した変更案を……」
また修正、やり直し。
哲也は半ば不貞腐れていた。あれほど頑張ったのに文句ばかり言われて。こんな毎日が続くぐらいなら、いっそ、突然辞めて会社を困らせて……なんて、陳腐な発想に支配されかけ、慌ててそれを思考の片隅に追いやる。
とりあえず今は、午後までに指示されたタスクを片付けようと、なんとか頭を切り替えるしかない。
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