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古賀とホチキス
大学に入学し、早3ヶ月が過ぎた。
人見知りのぼくにもようやく友達が出来た。
同じ学科で何度か授業や食堂で顔を合わせるうちに
少しずつ喋るようになり、読書が趣味だということがわかってからはかなり距離が近づいた。
学校が終わったら古本屋や本屋に行ったり、
ファミレスで今まで読んできた本のことをお互い話す時間は楽しかった。
ただ一つ、彼はかなりのずぼらであった。
古賀満はなんでもホチキスで止めるホチラーであった。ホチラーというのは彼が作った造語であり、何でもかんでもホチキスで止めることを意味するのだそうだ。ホチラーの彼は授業でもらった資料やプリントはひとまとめにしてホチキスで止める。トートバッグの持ち手が少し破れてくるとそこをホチキスで止めて応急処置をする。しまいにはハズレかけた靴底までもホチキスで止めてしまう始末だ。
無論、その後適切な処置をしたところをみたことがない。使ってるとバックの持ち手はまた外れてくるだろうし雨が降ると水が侵入してくるので絶対に直した方がいいとぼくは毎度言っているが古賀満は聞く耳を持たない。
「ホチキスのいいところは手が汚れないところだ。ボンドを使うと手が汚れるし、乾くまで時間がかかるだろう?こんな合理的な文明の力使わない手はないじゃないか」
彼はポケットにもカバンにもホチキスを2、3個入れているので授業で使うときは助かるが、針の補充がされてないこともあり、大体ぼくが針の補充を行う。針が補充され、空押しをすると針がパラリと落ちるのが気持ちいい。これは針の補充を極めた人にしかわからないかもしれない。
ある日の夕方、ぼくらは本屋の帰りに一瞬に電車に乗った。ちょうど帰宅ラッシュの時間で車内はぎゅうぎゅう詰めだった。身動きが取れないながらも視線を古賀の方に移そうとすると、ぼくの前のサラリーマン風の男がスマートフォンをいじっているのか肘がぼくの腹に当たった。鈍痛がして少し咳き込むとその男のスマートフォンは女子高生のスカートの下にあるのが見えた。
スマートフォンはカメラモードになっていた。
ぼくの鼓動が痛いくらい鳴る。怖いのはこの女子高生に決まっているのにぼくの心臓が鼓動しているのがわかる。怖い。何もできない。
何分過ぎただろうか、男はスマートフォンをスーツのジャケットにしまった。声をかけるべきだろうか。
でも何て?そんな問答を繰り返してると男は電車を出た。
すると古賀が僕の腕をつかみ、古賀に連れられるように電車を出た。
古賀はホームにいた駅員に声をかけ、ホームの階段の方を指差した。
「スカートの中盗撮してました。注意できなかったんですけど、俺あいつのスーツの裾にホチキスの針大量に刺しました。目印になればいいんですけど。」
駅員は古賀とそしてぼくにも礼を言い、階段の雑踏へ走り出した。
さっきの緊張がとけたのかぼくはその場に座り込んだ。
恐らく人混みをかきわけた際に誰かに踏まれてしまだたのか古賀のスニーカーの底が外れかかっていてほぼ裸足だった。
僕はカバンから簡単な裁縫セットを取り出して古賀のスニーカーを縫いつけた。古賀はもの珍しそうにホームのベンチで靴を縫いつける僕を見る。
「なんかお前、かっこいいな。普通友達でも人の靴さわれなくね?」
ぼくはこの先もずっと古賀の友達でいたいと思った。
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