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彼は誰に対しても冷たかったけれど、本質的には温かい人だったのだろう。
仕事をやめて入院すると聞いたときに冷たさの原因がはっきりと分かり、話したいと思ったけど面会は叶わなかった。
真夏、入院からひと月も経たず亡くなった。
言いたかったことは一つも言えないまま、葬儀に参列。亡骸を前にしたとき「酷い」という三文字が頭の中を占拠していた。
先に逝くなんて「酷い」
こんな運命は「酷い」
恨み言ばかり心に浮かべている自分は「酷い」
私も同じように冷たくなりたいと思いながらもどこかで彼に腹を立てていて、身の内側は沸騰している。
表面は冷たく内面は熱い。
そんな心理状態でふらふらとする中、火葬場へ向かう霊柩車を見送った。
何故か涙が止まらない。
しばらく動けずにいて、我に返ったときには私以外の参列者は姿を消していて、私は職員から穏便に促される形で葬儀場をあとにした。
夕暮れが近く気温も下がってきていたけど、夏の陽はまだまだ主張している。冷房の効いた建物から出たばかりで暖かさを感じたものの、数分もすれば汗が出てきた。
映画館から出てきたときの感覚とどこか似ているけど、先ほどまでの葬儀は作られたものではなくて、何がどうあっても彼と言葉を交わすことはもうできない。
やはり「酷い」と思う。
私はこれからその三文字を心に置いたまま生きていくことになる。要らないといって燃やしたとしても灰は残る。
彼が存在したこともずっと心に残ったまま。執着するつもりはなくても、いつまでも消えることはない。
どうすれば離れることができるのか分からず途方に暮れる。
恨んでも嘆いても変わらないけれど、この思いを糧にすることはできそうにない。いつかはできるのだろうかとぼんやりと考えながら、赤く染まっていく空を見上げた。
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