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朝起きると、生霊はまだ部屋の片隅にいた——これ以上ないほど丸く小さくなって。
「……おはようございます」
「起きたか!」
「ええ、目覚めは良くありませんが」
わたしはキッチンへ行き、コーヒーを淹れて部屋へと戻る。生霊は座卓の前で正座をし、じっとわたしを見つめている。
「師匠、助けてください」
「わたしは師匠じゃありません」
「助けてくれる人はあんたしかいないんだよ」
土下座して拝んでくる生霊の姿は情けなく呆れ返ってしまう。どうしてそこまで恨んでしまったのか——姉は一体何をしたんだろうか。
わたしは生霊に向き直り、真っ直ぐに見つめ話しかけた。
「根本的に、あなた自身が解決しないと永遠に終わりません。ですので、わたし達ができるのは現状回復のみです」
「現状回復?」
生霊は怪訝そうに——不安も見え隠れする表情でわたしを見つめている。わたしも出来る限り言葉を選びつつ話しかけてやる。
「さっきも言いましたが、生霊にならないためには、あなた自身が姉に対しての憎しみをなくさなければ解決しません。今、わたしから祓っても、また姉に憑く可能性も残っています」
「……生霊って面倒なんだな」
「はい。憑く方も憑かれる方も良いことが全くないので、本当にただの迷惑行為です」
「ハッキリ言うな」
「その方がわかりやすいでしょう?」
生霊は押し黙り、背を丸めて小さくなっていく。わたしはため息をついて、壁にかかった時計を確認すると、長針と短針はもうすぐ9時を指そうとしていた。
「ですので、祓うついでに根本的に解決してみようと思っています」
「あんた、お祓い的なもの出来るのか?」
「出来ません。わたしは視えるだけなので。そういうのは姉の方が得意なんです。霊感はそこまでないんですが、そういう『よくないもの』を祓うのには長けています」
わたしはコーヒーをすすりながら生霊を横目で確認し、玄関へ視線を送る。
「もう来ますよ」
「誰が」
「姉です。直接対決しましょう」
わたしはここ最近で1番だと思われる爽やかな笑顔を浮かべたかもしれない。
わたしの笑顔を見てなのか、姉が来るからなのかはわからないけれど、生霊の引き攣る顔と、玄関チャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。
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