ヒーロー随筆

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僕は18歳の春に作家になることを志し、司馬遼太郎はもちろんその他の幕末関連の本も読みあさろうと考えていた だが高野山にある図書館や書店で読める本はそれまで住んでいた鳥取県西部地区という地方と比べても極めて少なかった 20歳の夏に僕は『真田大戦記ジャスティス』というヒーロー小説を完成させた 少年時代からの、世界を救うヒーローになりたいという夢を描いた作品だったが、その頃に少年から大人になったからかそういう空想的な物語が突然書けなくなった 今思えば新たな方向性を見出すしかスランプを脱出する方法はなかったのだが、当時の若い僕はそれまでの夢にこだわった 今の僕が当時の僕に「ヒーロー随筆を書くのがいい」と助言してあげたいところだ 当時の僕がそれを書くためにはもっと興味のあることに貪欲であることが不可欠だっただろう とりあえず当時いた高野山から難波まで2週間に1度、出かけることをすすめたい そして半日は書店に入りびたり、少しでも面白そうだと思った本は立ち読みで確認ののち10冊選んで必ず買う それだけで世界が広がったはず 実際の当時の僕は親友の岡本くんにすすめられてTVゲームを度々買っていた 今の僕なら難波ほどの大都市にならたくさんあったであろう特撮ヒーローのおもちゃや80年代のおまけシールもほしい もちろんそれも合わせて買えばいい、当時の僕の経済状況なら十分に可能だ 今の僕にとって重大だったと思うのは岡本太郎の本を読んだことだ 当時は96年、岡本太郎はその年の1月7日に亡くなりテレビでとりあげられることも多かった 太郎に興味を持つ好機はあっただろう 太郎が持っていた、創作をしながらもその理由は決して金・地位・名誉といった成功を望むことじゃない、全宇宙の運命を背負い命を捨てるつもりで創る、という姿勢は当時の僕がたどりつくべき答えだった 本を読めば良い作品を書けるというわけじゃない ほとんど本など読んでないんじゃないかと思う山下清の書いたものは文豪の作品よりも心をうってくる だが僕がヒーローを楽しむためには本が不可欠だった いろんな本を読めばヒーローへの好意が上がり、その情熱こそがヒーロー随筆を完成させる できうるなら山下清のように自然体で書きたいとは思うが僕は清には遠く及ばない だが僕なりのヒーロー随筆を書いてゆこう もちろん金や世間体のためじゃない 岡本太郎がそうしたように、むしろ成功しないことを望みながら そんな随筆を書けた時に僕のヒーローは爆発を起こすだろう
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