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医者に来たせいで余計に具合が悪くなった。
数分で終わった診察の後、薬を受け取るのにもう随分待たされて、城野は風邪くらいで病院に来た自分を呪った。
待合室のソファに腰掛けて目を閉じる。そして、ここに来る途中のタクシーの窓から見た背中に想いを馳せた……その時。
「坂下さんー」
アナウンスされた苗字に城野は伏せていた顔を上げた。
はらりと髪が揺れて隠されていた美貌が現れると、周囲の視線が集まる。
その羨望と好奇心、時に憎悪にも満ちた視線は何処にいても城野に付きまとった。
ーー坂下
それは特別に珍しい苗字という訳ではなくて。
だけど城野にとっては、とても大切で、特別な苗字だった。
「坂下さん。坂下ゆづるさんー」
ーーその…瞬間
城野の心臓は止まって、再び狂ったように早く動き出した。
『坂下ゆづる』
周囲を見渡してもそれらしき人物は見当たらない。
同姓同名で、それは城野の求めるその人ではないのかもしれない。
それでも城野は席を立ってアナウンスが流れてきた受付の方に歩き出す。
『坂下ゆづる』
という名前の持ち主に会うために。
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