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「何か、おすすめあります?」
うーん、と彼は首を傾げてうなった。
図書室の照明で、彼のまつ毛がすだれのような影を落としている。
いいな、引きちぎって、私のまぶたに植え付けてやりたいくらい。
「サマセット・モームの『月と六ペンス』は?」
「どんな話ですか」
「君の好きなファム・ファタールの男版みたいなのが出てくる」
「ちょっと!」
内心私はギクリとしていた。
まるで心の中を透かされていたかのような奇妙なリンクだったから。
「だって、まだ君のことよく知らないから、つい。また今度時間ができたら、お互いの読書歴についてでも話そう。じゃあお互いに試験は頑張りましょうね、ってことで」
私の抗議の声をひらりとかわし、彼は向こう側に呆気なく去っていった。
瞼に焼き付いた風景とのデジャヴ。
空気は人工的な冷たさで、蝉の声は届かないけれども。
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