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彼からやってきた返信は、
——どこが面白かったの?
さて、どこまで話せばいいのやら。
勿論、彼が紹介した作品なのだから、彼が純粋に一読者としての私の感想を求めるのは、よく考えてみれば当たり前だ。
けれど、そんな当たり前にすぐ気付けないほど、気持ちが傾いていると人は馬鹿になる。
作品への関心と、自身への関心を混同してしまうのだ。
簡潔に、かつ的確に感想を述べるというのは、こんなに難しいもの?
まずはファム・ファタールについての見解を軽く述べたのだけれど、数時間遅れて帰ってくる返信は、案外その先を深掘りするような質問を携えてやってくる。
なんだか自分の心を試されているような気がして、文章を作るのを躊躇ってしまう。
ただでさえ頭の中をテストされている期間なのに。
必然的に、やりとりの速度は緩やかになる。
言葉を交わす日も、交わさない日もあって、まるで十九世紀の書簡のよう。
細い糸を伝う雫のような頼りないやり取りが、それでも愛おしくてたまらなかった。
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