夕立とファム・ファタール

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夕立とファム・ファタール

 夕立がアスファルトを叩きつけ、行方をなくした水の塊が、波打って私の足元に迫ってくる。  じっとりと濡れて重く暗い色になった革の靴。  不愉快な天気の中、軒先の自動販売機に並ぶようにして、店の角の壁に寄り掛かり、じっと雨止みを待っていた。  ああ、鞄の中の文庫本さえ、濡れてふやけていなければいいのだけれど。  そんなことを思いながら、いつになったら止むのやら、と少し空の調子を見ようと前に出たその時、店の角で死角になっていて見えなかった壁のところに、私と同じように寄りかかっている男の人が視界に入った。  彼もまた、ちょうどこちらを見ているような角度に首を少し倒しているところで、ばっちりと目が合った。  キリンのようだ、というのが第一印象。  それは多分、首が長く見えたのと、動きがぼんやりしているのと、それから、平均的な男の人と比べて、まつげが少し、長く見えたから。
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