フラミンゴ色に染まった

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 当日、彼はいつも通りのシンプルな装いで現れた。 ご近所ということで、最寄駅に集合し、そこから数駅行ったところにある映画館に向かう。 誘うところまでは勢いで突っ切れたけど、やはり当日の朝ともなってみれば、動揺してしまう。 まともに男の人と出かけるのなんて久しぶりだし、ましてやほとんどリアルで喋ったことのない人と、いきなり出かけて大丈夫か。 なんて覚束ない足取りで向かっていたのだけれど、彼に会った瞬間に、スイッチが切り替わる。 「ご無沙汰しておりましたー」 「なに、その他人行儀な挨拶」  微笑に届かないくらいの、目尻の下がり方、口角の上がり方。 相変わらず何を考えているのか分からないし、こちとら勘ぐる余裕だってない。 それにも関わらず勝手に言葉をほうってゆく自分の口は、まるで独立したひとつの生物のようだ。
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