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「雨、止みませんね」
文字に起こしたら、疑問符がつくのかつかないのか微妙なラインのイントネーション。
「ええ、本当に」
仕方なく始まった言葉のやり取りに対して、私もぎこちない返答を残す。
雨の轟音がたちまちに、たった二言の会話の不自然な余韻をかき消してくれたことが幸いだった。
彼は、ゆっくりと、首の位置を戻したけれど、視線だけはまだ私の方へ引きずられたままだった。
「家に帰るところですか?」
自分がそうだからといって、相手もそうだとは限らないけれど。
だって、会話するにはあまりに情報が少なすぎる。
「そうです。急いでいないので、こうしてここに、閉じ込められています」
閉じ込められている、って。
おかしな表現に、少し笑いをこぼしそうになったけれど、心地好さそうに目を閉じた彼の動きを追っていると、そんな気持ちは消え去った。
「そういうわりには、なかなか今の様子に満足げですね」
彼はおもむろに目を開けて、正面の雨降りの景色を眺めながら、言った。
「トタンに落ちる雨の音は、嫌いじゃないので」
私は、乗り起こしていた身をそっと壁際に戻した。
ああ、これは駄目だ、と思った。
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