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トタンの屋根の蛇腹の凹んだ部分から流れ落ちる水に視線を移しながら、私は思索した。
けして、特別に綺麗な容姿をしているわけではない。
けれど、どこかその動き一つ一つに吸い寄せられてしまう。
既に私の胸の内に、予感は宿ってしまっていたし、それは無理やりどうにかできるものではないのを、私は短いこれまでの人生の中で既に学んでいた。
「私も、この辺に住んでいるんです、ここを、ずっと右の方へ」
「そうですか。俺は、左の方」
一人称は、俺。
「ではこの軒先の角が、私たちの道筋の分かれ目のはずだったんですね」
「分かれ目も、反対から辿れば、交差点になり得ますからねぇ」
彼の表情は全く見えなくて、彼が何を考えているかを示すシグナルは、どこにもない。
でも、ここで縁を途切れさせてしまうには、あまりに惜しい。
私は意を決して、聞いてみた。
「読書はお好きですか?」
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