夕立とファム・ファタール

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「どうして?」 「あなたの言葉の選び方が、そのことを私に想起させたので」  ふっと息を漏らすような笑いが私の左耳に届いた。 「少しだけ、そういう時期もありました。 でも、あなたも同じ穴の狢でしょう?」  言葉に冗談じみた、しかし明らかな親しみが宿った。 「ええ、そんなに高尚なものではないですが……そして、私はまだ穴の中にひっそりといますよ」  読書家、と名乗るにはおぼつかないが、それでも全く読まないわけではない。 「今は?」 「ナボコフの『ロリータ』、この前まではヘミングウェイ」 「もしかして『日はまた昇る』では?」 「……なんで分かったんです?」  最大限の驚嘆を込めて私は訊き返した。  全くもってその通りだったからだ。
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