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「だから言ったでしょう、同じ穴の狢だって。じゃなきゃこんな連想方法、します?」
むわっとした大気とともに、いつの間にか私たちを閉じ込めていた雨音の檻は消え去っていて、中にいる動物たちには、橙がかった空の下へと脱走するべき時がやってきていた。
それを繫ぎ止める手段も、言葉も、私は持ち合わせていない。
「では、これで。またすれ違ったら、その時は」
「ええ」
にべもなく、あっさりと彼は去っていく。
左の道を、何の特徴もない白い背中が遠ざかっていく。
私も雨上がりの世界へ踏み出した。
蝉の音が復活している。
ああ、何て日常的な夏の風景であることか。
ファム・ファタールの対義語なんて、あるのかしらね。
そんなことをぼんやりと思いながら、私はいつも通りの家路を歩んだ。
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