路地恨々(ろじうらうら)

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 「あったたたた」  状況が把握できないまま、慌てて身を起こそうと短い腕を支えに膝を立て……。 「あれっ?」  立てない。身を起こせない。  まさかと思い視線を足元に送った。 「ひっああああああああああ」  嫌な予感ほどよく当たるもので、やはりというか僕の両脚は膝の少し上までが輪切りの肉になっていた。  こうなってはもう何をする事も出来ない。  僕はその場でジタバタと藻掻くしかなかったのだが、実際の動きはジタバタというほどには活発ではなく、モゾモゾという小さな足掻きしか出来ていなかった。 「ゴメンナサイ……」 「そんなにビクビクしなくても大丈夫だよ」  聞き覚えのない声が二つ。  と同時に、僕の横に二人の人影が現れた。どちらも小柄で細身だけど、声の感じからは男性と女性。  足元からは例の背の高い人影が迫ってくる、気がつけば僕は三人に囲まれていた。 「あらら、これではもう身動きが取れませんね」  初めに話しかけてきた声の主が、おもむろに覗き込んできた。 「ぁひっ」  その顔を間近で認識した瞬間息を飲んだ。本当に驚くと身体は固まって悲鳴を上げることさえ出来ないらしい。  人じゃない。人じゃない、けど、動物?なのか?  小さくてつぶらな目と頭の上にチョコンと付いている丸い耳。短めの毛がびっしりと生えた一見ネズミのようにも見える動物の顔がそこにあった。 「フェレット……?」  後から来た二人?の頭も人ではない、この動物が喋っているのか? 「…ぷっ……」 「あっはっはっはははははは」 「ひひひひひひひ」  何がおかしかったのかは分からないけど、三人?が笑い出した。 「そーか、そうだよねぇ」 「今どきの人間にはフェレットに見えるのか」 「……違うんですか?」  小動物の頭からは想像もつかないほどに流暢に話すので、思わず会話に吊られてしまった。 「ぷっ……はははは、君も変わってるね。今の状況分かっているのかい?」 「うふふ、私たちはねフェレットじゃなくて、イタチだよ」 「イタチ?」 「聞いたことない?鎌イタチ」 「カマ……?」  言いかけると同時に白刃がギラリと光る。 「あっわわわわわ」  スーツの両袖からは大きな鎌が生えていた。 「ねっ、鎌イタチ」  カマイタチカマイタチカマイタチカマイタチカマイタチカマイタチ。  って妖怪じゃん。「子供の頃、妖怪図鑑で見たような気がします…」  おずおずと答えるとスーツのカマイタチが顔をしかめる。可愛らしい小動物の顔でも、はっきり表情が分かるというのは思わぬ発見だった。 「う~ん、その様子だと、あまり妖怪とか詳しくなさそうだね。キミ本とか読まないタイプ?」 「どっちかってと、外でサッカーばかりしてました」 「ひひひ、もうボールは蹴れないけどね」  後から来た男が楽しそうに笑いながら、嫌なことを思い出させる。  まあ男と言っても、水色のパーカーを着たコイツだってカマイタチなんだけどさ。  パーカーイタチのいう通り、僕の両腕と両脚はそこで輪切りになって転がったままだった。当の僕は余りにも突拍子もない状況で、現実味が薄いけのだけれど。 「だったら知らないかなぁ、僕たちはいつも三人一組で行動してるって話」 「人気のないところで人間を見つけると、一人が転ばして、もう一人が鎌で切り付けて、最後の一人が傷口に薬を塗るんだよ」 「……傷口、痛くない……でしょ」  女のカマイタチが遠慮がちに話してきた。この子はピンクのパーカーを着ている。  確かに、漫画みたいにバラバラにされている手足はおろか、その手足が生えていた断面からも一滴の血すら流れていないし、痛みなんて毛ほども感じなかった。 「何で……そんなこと?」 「まあ、君たちには分からないと思うけど、人間が驚いたり怯えたりする時に出る波動みたいなものがあってね、それが我々妖怪にとってはデザートみたいなものなんだ」 「甘くて、美味しいんだよ~」 「そうですか、ではもうお腹いっぱいですね」  僕は視線を輪切りの肉塊に移した。これだけ盛大に切り刻んだのだから、もう十分に満足しただろう。 「いやいや~、それがそうじゃないんだ。さっきデザートだって言っただろう、本番の食事は別だよ」 「そうそう、新鮮なお肉と真っ赤な血がまだ残ってるじゃない」 「……ごめんね」
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