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 陛下崩御から半月。  俺は皇位争いの旗頭(はたがしら)(かつ)ぎ上げられていた。 「誰が皇帝になりたいなどと言った……」  絞り出した言葉が(うめ)き声のように漏れる。 「翡翠の君があれですからねぇ。そのうえ皇太后……いやまだ皇后ですか、もこれですし」  佳閃が見やる先にあるのは書類の山。  これらすべて、皇后の所業を調べ上げまとめたものである。  権力に固執する様をまざまざと見せつけられているようで、なんとも不愉快だ。 「蘇芳の君、いかがなさいます? 以前動くつもりはないとおっしゃっていましたが、どう考えても放っておいたらろくなことになりませんよ?」 「わかっている」  わかってはいるのだ、そんなことは。  どんな阿呆でも同じ結論に至るだろうくらいには明らかなのだから。 「どうぞ、貴方様の思う道をお進みください。私めもお供致しますから」 「……そうか」  どうしろと言うのだ。  命まで預けられてしまったら、失敗など許されないではないか。  頭が痛くなった気がしてため息をつく。  それと同時に、天井でこつこつと音がした。 「おや、ちょうど良いところに。こちらへ来てください」 「待て、俺の許可も無しに何を入れようとしている」  ここは俺の自室だぞ。 「影です。蘇芳の君がおっしゃっていた例の密売組織について調べさせていました」 「なんてものを飼っているんだ、お前は」  思わず顔を(しか)める。 「だめですよ、蘇芳の君。影くらい飼っていないと、簡単に足元を(すく)われます。私めの影は全て蘇芳の君のためにしか使っておりませんのでご安心を」  止める間もなく影を招き入れる佳閃。  天井の板が一枚外れ、そこから黒い服で全身を包んだ男が一人、落ちてきて音もなく着地した。 「報告。組織、皇后、複数人を通して繋がりあり。組織から流れた毒、皇后が手にしたらしき毒、皇帝の症状が一致。皇后、組織の情報を意図的に漏らしたか。組織の捕縛は皇后が関係すると思われる。皇后でない(すじ)からも捕縛への誘導あり、詳細は追えず。以上」 「ご苦労さまです」  佳閃の労いを黙礼で受け、影は再び天井に消えた。  ご丁寧なことに、外した板も元に戻されている。 「これではっきりしましたね。皇后は黒、皇帝を(しい)した国賊です。組織は皇后に利用され切り捨てられた、というところでしょうか」 「だが、待っていればいずれは手に入る皇帝の座だぞ? わざわざ危険を冒してまで皇帝を弑す必要はあるまい。皇后はなぜそんなまねをした?」 「さて、私めにはとんとわかりませんね。本人を問い質すのが一番手っ取り早いでしょう」 「簡単に言ってくれる」  あの皇后が素直に喋るとは思えない。  捕まえるにしても色々と壁に(はば)まれている。 「蘇芳の君、私めにお任せくださいませんか?」  にやりと、自信ありげに笑う佳閃。  既に勝算が見えている時によく浮かべている表情だ。 「……いいだろう」  やれるところまで、やってみるがいい。 「ついでに俺が皇帝にならずに済むようにしてくれれば万々歳なんだが」 「それはもう手遅れかと」 「冗談の通じないやつめ」
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