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CMは終わりを告げて、すぐにどうでもいいゲーム機の画像に変わった。男は慌ててそばにある携帯電話を取り出し、天国オンラインと検索をかける。
手が震えて仕方がなかった。ああそうだ、聞いたことがあった。
現代で最高の技術をもって成功された死者と会話ができる機械。一昔前とは違い、今は天国なる世界が発見された。そしてそこに住む者とオンラインで会話ができる装置がここ最近開発されたのだという。
一時期大変話題になった。だが、なんせその使用料金がとんでもなく高額であり、富裕層しか使用できない代物だと噂で聞いた。
「これだ……」
男の呟きが侘しいリビングに消える。
・天国にいる者となら誰でも話せる!
・あちらの顔を見て、そしてこちらの顔も見せれる
・ただし、まだ長時間の会話は無理、最長5分
急いで携帯を操作して使用料金を見た。そしてその数字を見た途端、彼は一瞬息が止まってしまったほど驚く。
一般的な、いやそれより小さなしがない会社に勤めていた彼の年収の何倍もの金額だった。これは確かに噂通り富裕層しか縁がない話だ。
……それでも。
彼はぼんやり妻の顔を思い出した。あの優しい笑顔を見れたなら。一言でも話せたなら。
毎晩泣きじゃくる娘を今度は思い出した。手は届かなくとも抱きしめられなくとも、せめて別れの挨拶を交わせたなら。あの子も救われるのではないのか。
突然逝ってしまった妻と、たった5分でも話せたら。私たちは止まった時間を再び歩き出せるのではないか。そう彼は思った。
立ち上がり通帳が入った小さな引き出しを開く。それを開くも、やはり笑ってしまえるほど金は足りない。今から金を貯めようとして、一体何年かかるのか。その間娘も成長し母を恋しがることもなくなるかもしれない。
「……でも」
彼は唇を噛んだ。
乾いたそこからわずかに血が滲み出る。
私が会いたい。
私が君と話したいんだ。
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